「なぁ、なにが面白いんだよ。」

今俺は、近くの交差点を右折し、しばらく大通りを進んでいるところ。
確かに歩いている距離はそこまで長くはない、むしろ近いんだが・・・・


「いいから、ついてくりゃ分かるって」
いまいち信用できない。

そのまま黙々と、時々昴のボケにささやかなツッコミをいれてやる程度の会話で進む。

「なぁ、どこd「ここが入り口だ」
俺の発言にモロかぶりし、ってかもうわざとじゃないかってくらいモロかぶりし、軽くへこむ。

言われたとおり振り返ると、人一人がちょうど通れそうな


通路


ここに通路があるなんて事、気づかなかった。
いつも通学路として利用する道だ。

気 配 を 感 じ な い。

不信感がつもる。

そこまで普段、何かを考えつつ動いているわけでもない。
今もだ、何があるのか不信に思いあたりを用心深く見ていたつもりだった。


だが




言われるまで気づかなかった。




「気づかなかった」

思わず口から漏れた正直な感想に
「気づいてたら、意味ないからな」

とだけ言い
「ぼけっとすんなよ間に合わなくなるだろ」

といって昴は駆け出した。

「お、おい待てってば!ってか間に合うって何を」

言い終わる前に通路をダッシュした昴は右折しきえた。


とりあえず、おいてかれても困るので、走って付いていく。






俺が角を曲がって追いつこうとすると昴はまた道を曲がる。



(ちくしょう。アイツわざと遠回りしてんじゃねぇのかっ!?)


(っていうか・・・ここ、そこまで広い路地じゃないはずだ)


大通りと建物をはさんだ向かい側は駅前のターミナルになっている。
ここまで奥に進めるはずがない。


(角とか曲がりすぎて方向感覚無くなってんのか・・・?)

その後、ろくに光も入らない路地へ入って行く、上を見る限りもうすぐ夕暮れだろう。
空が薄オレンジに染まりつつある。





また、昴が角を曲がったので、空に向けていた目を戻し、走ることに専念した。

とりあえず最後のほうは一本道でなんとか昴に追いつく


「お前、まるで逃げるようにダッシュしなくても・・・」

息を切らして肩で息をする俺が、文句の一つでもさらに言ってやろうと思い顔を上げると


昴がいた

のはご理解いただけるだろう








昴の前にさらに




扉があった。



今進んできた道にもいくつかのドアはあったが
どれも錆付いていていかにも古そうだった。










これは違う。








荘厳な作りのこのドアは観音開きのようなかたちで
恐らく厚く重いのであろう。

ドア全体には細かな掘り込みがあり
取っ手にはツタの絵が刻み込まれている。



まるでドア自体に呪がかけられているような・・・

なにかを封じてあるような作り。



触れるどころか
近づくのも気に病むようなおどろおどろしい気を発していた。






「な、これ・・・」

「ここが入り口だよ」







こんな不審な気配を発しているものの前で、こいつは新しいおもちゃを見つけたような至極無邪気な笑顔をしている。

可笑しいのはこっちの方なのか・・・?








「なぁ、変な感じするんだけど、帰った方が」

「こっからが面白いんだぜ?今帰ったらつまんねぇって」

「だけど何も起こりそうにもないじゃんか」

「後ちょっとだって。」




閉ざされたこの空間で、これから何が起こるというのか。




「後十秒」
いきなり昴がカウントをはじめた。

「10」

何があるのかまだ分からないでいる


「9」

かすかに何かが動くような気配がした


「8」




「7」




「6」

心拍数が上がる


「5」




「4」




「3」

扉の奥で、鉄が落ちるような音がした



「2」





「1」



そして・・・




「0」






カウント終了とともに、鉄が落ちる音が加速し、2,3個鉄の塊が落ちる音がする。
蝶番が落ちるような音だ。

そして、なにかのからくりが動くような、歯車のまわる音がする。





















この時、歯車が廻る音と一緒に俺の運命まで廻って巻き込まれてしまったのだが、気づくのはもう少し後だろう





















歯車の音が大きくなり、全体が動き出す。


どれだけ押しても開きそうになかった扉が、ゆっくりと動き出す。
そのゆっくりと動く扉が、俺の緊張感と心拍数を飛躍的に高めた。


冷や汗が、伝った。








「さ、入るぞ」


その一言に、我に返って昴を見た。



すでに、その開ききった扉の前にいて、こちらを見ている。






入ったら、絶対やっかいごとに巻き込まれるだろう。

だが、ここで戻ってどうする?
すでに面倒な事に巻き込まれている気がする。

というか、最初からこいつとつるんでしまった自分をうらむしかないのだろうか。
そうする?
一人の自分が聞く。
面倒事は嫌いだ。
でもすでに巻き込まれていたら?










だったらしょうがない、のってやろうじゃないか。






すでにこちらに背を向け扉に入りつつある昴の背を追った。




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